サンガンピュールの物語(お菓子の国)1話-1-東京へプライベートで出かける日のKは寝起きが悪い。普段5時半起床の生活をしている彼にとって土曜・日曜は絶好の朝寝坊日和なのだ。その割を食うのはサンガンピュールである。平日なら7時過ぎには用意されている朝食が週末や祝日に限っては自分で用意するハメになるからである。大体はコーンフレークに牛乳。これで十分だが、サンガンピュール自身はやや面倒くさがっていた。適当にテレビをつける。ときたまチャンネルを変える。大体は旅行系の番組か、1週間を振り返るニュース特集番組が放送されている。 「おじさん、早く起きてよ・・・」 とつぶやきながら朝食を取る。大人の事情は子どもには分かるまい。 さて、いよいよ東京へ出かける時間が来た。これは1カ月に一度のイベントでもある。普段は地元のスーパーやコンビニで日用品や自炊する時の食材等本当に必要なものしか買おうとしなかったり、牛丼屋ではいつも普通の牛丼あるいは豚丼を頼んだりというケチな金遣いのKが東京に出てきて買い物や食事等で大奮発するのだ。しかも今回は仕事で大掛かりなプロジェクトに目途がついたことで会社から臨時ボーナスが出たのだ。予想外の臨時収入にハイテンションなKは 「これを使わないのなら勿体無い。もっとおいしいものを食べよう!」 と意気込む。そこで2人で東京・足立区は北千住に出ることにしたのだ。9:30頃に土浦を出る常磐線の列車に乗り込む。それから1時間。やってきたのは北千住駅前のマルイ。当然、多くの買い物客でどの階もごった返している。マルイにテナントとして入居している本屋や電機屋にも寄って行きたいと思っているKなのだが、中でも一番楽しみにしているのが地下街での食材探しである。サンガンピュールも日本に来てから何度かこのデパートに来たことがあるが、休日のイベントの中でこれほど楽しいものはない、と彼女も思っていた。何しろパン、ソーセージといった精肉系をはじめとして、野菜、トロピカルフルーツ、キムチといった漬物等、フランスでは見かけられないものが多く、どれもが新鮮に見えた。チーズという例外を除いては。 ここで地下街のパン売り場にてサンガンピュールがまた一悶着起こした。Kが品定めを始めた時だった。 「さてと、チーズ入りのパン買おうかなあっと」 Kはここのパン売り場の定番商品「パン・ドゥ・フロマージュ」がお気に入りなのだ。ところがKはここで異変に気付いた。 「ん?」 「おいしい!止まらない!」 なんと、サンガンピュールが試食用のパンをガツガツ食べていたのである。 「バカ野郎!試食用のパン食い尽くすな!」 Kの一喝に彼女は驚いた。 「へっ!?」 「へ、じゃないべ。他のお客さんのこと、考えろよ!もう、みっともないよ」 「お嬢ちゃんね、ここはお家じゃないんだから・・・(苦笑い)」 店員のおばさんが言った。サンガンピュールも自分の取った行動に気付き、こう声を掛けるしかなかった。 「すみませんでした」 「どうもご迷惑をおかけしました。あっ、パン・ドゥ・フロマージュを4個ほど下さい」 Kは陳謝し、予定の買い物を済ませた後にサンガンピュールを階段室に連れて行き、説教を繰り広げた。 ただいま説教中・・・。 「とにかく、二度とあんなことをしないように!」 「はい・・・」 サンガンピュールの高かったテンションが一気にしぼんでしまった。 (第2話に続く) |